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「がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か」と「医療革命 あなたの命を守る未来の技術」 

クイズ付き書評
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金子勝さんの進行で、児玉龍彦さんと辻野晃一郎さんが、日本の今と未来を科学・技術の現場から考えるYouTube番組「児玉龍彦×辻野晃一郎×金子勝の【未来への対話】Before&After 」を見た愚者(サイト主)は、児玉龍彦さんが解説する、医薬品市場の中で今、最も大きな割合を占める、がん治療薬「プレシジョン・メディシン」がとても気になりました。

前提知識がなかったので、児玉龍彦さんの話が当初、あまりよく理解できませんでした。とはいえ医学の進歩のおかげで、私たちの寿命が長くなり、老衰や事故、不摂生以外の主な死因ががんとなった昨今、治療法によって助かる命と助からない命がかなり分かれると聞いて、今まで親しい人たちががんで亡くなって悲しい思いをした愚者(サイト主)は、知らないことで後悔したくないと思ったのです。

児玉龍彦さんによると、がんは早期がん進行がんに大別され、早期がんは取れる&治るが、問題なのは、取れない場所にできたがんや、進行がんだということでした。進行がんは「治療薬が効かなくなった再発がん」、「違う臓器に転移したがん」であり、専門医がお手上げになって、多くのがん難民患者を生み出しているのだそう。

変異したがんの遺伝子に対しては、ゲノム診断を正確に行い、1人1人に合った個別化・精密化した治療が必要で、世界の流れは個別化・精密化したがん治療薬による長期の在宅医療が主になってきているのに対し、日本では単一の抗がん剤に頼ってしまい、効かない&やればやるほど副作用が出てしまうとか。途中、膵臓がんへのmFOLFIRINOX (フォルフィリノックス) 療法(埋め込みポンプ投薬3日後3週間間を空ける繰り返し)の話が挟まり、がんの変異が昂じると、今度はオプジーボのような薬を使うので更に長期化する。同じ遺伝子の患者は世界で10人いるかどうかなので、世界中の最新知見を集めて治療していかないといけない。知識を溜め込む式の今の日本の医学教育では限界……etc。

はっきり言って、話の半分も分かりませんでした……(汗)。

とりあえず「プレシジョン・メディシン」が何なのか知りたいと思った愚者は2017年刊のこちらの書籍を読んでみました。

本書によると、まずがん治療薬は以下の3種類があるそうです。

1)従来の抗がん剤
細胞のDNA複製を阻害。「代謝拮抗剤」「アルキル化剤」「白金製剤」などがあり、延命効果のみ。

2)分???薬
異常なたんぱく質と結合して、がん細胞の増殖を止める同じタイプの遺伝子変異なら、臓器が違っても同じ薬が効く可能性があるので、がん治療を、臓器別から遺伝子変異別に変える必要があるが、「適応拡大」(違う臓器のがんにも使用すること)には、日本では厚生労働省の承認が必要。ただし、有効性だけ確認し、安全性の確認は不要なので承認のハードルは低い。

3)免?????ポ?????薬
がん細胞は自分を攻撃する免疫に対してブレーキをかけようとするが、この薬はブレーキを掛けさせないように働き、免疫をふたたび活性化させる

正解はこちらをクリック

2)と3)それぞれの特徴は、

2)半年~数年で耐性を持ってしまう次々と新たな治療薬を試さないといけない
3)変異が激しいほど効果的長期にわたって投与が必要なため高額。年間数千万円かかることも。

2017年現在、2)は50種類ほど、3)は3種類が保険適用。

問題は保険がきかない新薬がほとんどという点です。

まずは検査次世代シーケンサーという1度に複数の遺伝子を調べる装置が開発されていて、自費の場合、数十万円か百万円前後掛かります。

見つかった遺伝子変異に対応する2)が見つかった場合、保険適応外使用なら治療費は自費で、月額数十万円以上。自費になってしまった場合、副作用の治療費や、途中のCT検査や、口内炎治療も自費に。日本の医療制度では保険治療と自費治療を同時に1つの病院で行う、いわゆる混合診療ができないからです。

日本未承認の場合は、臨床試験がどこかで行われているかを調べて、参加しますが、条件が厳しいそうでう(対象該当がんであるか? 手術不可患者か手術後再発か? 投薬に耐えられる健康状態か?など)。まさに運と縁の世界。

適応外使用が認められいるアメリカでは、オバマ大統領が大々的に推進し、臓器を限定せず、特定の遺伝子変異の患者を一緒に集め、臨床試験を行っているとか。また、IBMのワトソン・ゲノミクスやノースカロライナ大学病院では、AIを使ってターゲット遺伝子変異を特定。関連する論文、臨床試験情報を調べて、わずか2~3分で医師に治療薬を示すのだそうです。

「ファンデーション・メディシン社」(マサチューセッツ州ケンブリッジ)という遺伝子解析企業では、数十台の次世代シーケンサーを備え、1度に315の遺伝子を調べられるのだそうです。承認薬の有無や、適応拡大の可能性、臨床試験状況と病院名をリストにしてくれるとか。費用は5800~7200ドルで、ロッシュ社が出資しています。

本書では日本での取り組みとして、国立がんセンター東病院が中心となって、全国245の医療機関と16の製薬会社が共同で行っている、日本初の産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト「スクラム・ジャパン」や国立がんセンター中央病院が中心となって行っているがんゲノム医療プロジェクト「TOP-GEAR」希少がんの研究開発およびゲノム医療を推進する、産学共同プロジェクト「MASTER KEYプロジェクト」、
などが紹介されています。

基本が多少分かったところで、もう少し新しい情報をチェックしたいと思い、読んでみたのが2022年刊のこちら。

最初に乳がんが再発し、抗がん剤が効かなくなった患者の実体験が掲載されています。そういう症例を「医者がうなだれ、患者を気の毒に思うタイプ」と呼ぶそうですが、患者本人やその家族にとっては「気の毒」どころじゃすまないですよね。で、患者は担当の外科医に「実験的治療を聞いてみた」そうなのです。聞いてみなかったら運命は全く違うものになっていたと思うとやはり、医者の言うことをただ聞いているだけじゃダメな場合があるのですね。担当医が、たまたま同僚と最先端研究をやっていたため(運が良かった!)、ムーアがんセンターで、I-PREDICTの臨床試験に参加することができました。がん細胞DNAの遺伝子検査をした結果、様々な変異が見つかりました。これは前述したがん治療薬の3番目が最も効果的な症例でした。がん細胞が作るタンパク質が、免疫細胞と結びついてブレーキをかける作用を阻害し、免疫力が蘇ります。

今回投与されたのはオプジーボ(一般名ニボルマブ)(児玉龍彦さんの解説に出てきた薬です!)。本来はメラノーマ(悪性黒色腫)や肝臓がん、肺がん用だったそうです。2回の投与で腫瘍マーカがなんと75%も減少したとか。適応拡大を的確に行ったおかげで患者は助かりました。

さらには特定の(遺伝子タイプを持つ)がんを攻撃する免疫細胞を特定し、培養した作製細胞を患者に注入してがんを一掃する療法例も紹介されていました。

2003年にゲノム解読に成功してから本書の原書が書かれるまでの13年の間に、アメリカでは1000億円以上の資金が投入され、今や10万円余りで検査ができ、それもたった1日で分かるようになったそうです。今後、10年以内にすべての人の医療記録にDNA解析データが加わるようになると多くの専門家は語っているとか。本書に登場するアメリカの保険会社は、乳房X線撮影や大腸内視鏡検査とともに、ゲノム解析も行っているのだそうです。

1.5型の糖尿病である愚者(サイト主)にとって興味深かった症例は、長年にわたり自らの体を実験台にして「病気の兆候を察知するシステム」を考案し続けているプレシジョン・メディシン研究医のエピソードでした。この医師は、DNA解析で2型糖尿病の素因があることが予め分かっていました。とはいえ自身は細身で、家系には糖尿病患者がいなかったので長らく気にしていませんでした。ある日、厄介なウイルス性感染症にかかった後、血糖値が急上昇。検査の結果、糖尿病と診断されたそうです。

その後、食事と運動(いわゆる生活習慣)の改善で血糖値は正常に戻りましたが、5年後、じわじわと血糖値が上がり始め、数ヶ月飲み続けた薬も効かなくなったそうです。生活習慣の改善では発症を先送りできただけでした(*注1)。

他にもこの章には、ゲノム情報のバイオバンクや特定の疾患を調べるためのモデル作製、ゲノム編集技術による遺伝子改変、幹細胞を使った最新研究などが載っています。

また、本書はいくつかの章に分かれていて、その他にも自閉症の早期発見やmRNAワクチンの話題、痛みのメカニズムの解明、女性向け医療の改善なども取り上げています。気になる症状の方は是非一読をおすすめします。

自分がプレシジョン・メディシンを受けたいと思った場合、該当プロジェクトに参加する方法に詳しい医師及び医療機関にうまく出会う必要があります。日本では医師や医療機関の信頼できる&分かりやすい評価情報が無いので、セカンド・オピニオンを受けまくるなどして良い医者に出会うか、インターネットなどで調べるしかないのかもしれないと思いました。

児玉龍彦さんは動画の中で、「今、知識の流れが変わって、普通の患者さんでも詳しく、いろんな情報集めてきて、専門職より詳しい人が出てきている。でも詳しい知識をベースもなしに理解するから、誤ったものに振り回されやすいという現象も進んでいる」と警告しています。

最初に読んだ2017年刊の本では、臨床試験に参加できるかどうかは、運と縁の世界と書かれていましたが、なんと2018年から厚生省はがんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議を開き、全国どこでもゲノム医療が受けられるよう全ゲノム解析等実行計画が策定されていたのです(*注2)!

がんゲノム医療連携病院に行けば、プレシジョン・メディシンが受けられる可能性が高い

このことが分かっただけでも今回はとても収穫がありました。

注1

ちょうど本書を読んでいる時に、糖尿病ネットワークというサイトでこの記事を見つけました。

幹細胞由来膵島療法により1型糖尿病患者がインスリン不要に 新たな治療法の可能性

1型糖尿病患者に、幹細胞由来のインスリン産生細胞を移植する研究がカナダで行われ、2023年10月の第59回欧州糖尿病学会で発表されたそうです。この研究にはインスリン産生膵島細胞療法の「VX-880」が用いられ、VX-880の開発企業であるVertex Pharmaceuticals社の援助を受けて行われたと記されていました。

2023年6月に開催された第83回米国糖尿病学会議では、すでにVertex社の実験結果は発表されていました。

ADA 2023 ー Vertex が 1 型糖尿病治療への期待を高める

この段階では被験者はたった6名だったと、やや懐疑的なのですが、上記のカナダの研究も6人を対象とした研究とあるので、これは同じもの? と愚者は思いました。

また、本記事にはVertexは4年前に10億ドルでセマ・セラピューティクスという会社を買収したとあります。

Vertex、Semma の実証されていない糖尿病細胞技術に 10 億ドル近くを費やす

臨床試験を開始していない段階での巨額の買収決定に踏み切ることができたVertex。積極的にリスクを取りに行くアメリカ企業の貪欲さは正直、恐ろしいとさえ感じてしまいます。

VertexがFDAの治験許可を取ったのは2021年。

バーテックス、FDAのOKを得て1型糖尿病治療薬の治験を全力で進める

また、アメリカで免疫抑制薬不要のカプセル化(VX-264)試験を始めたのが2023年3月でした。

米Vertex社、免疫抑制薬不要のカプセル化膵島細胞が1型糖尿病で米試験開始へ

カナダではすでに実験中とのことなので、上記の研究はほぼ同じものなのかもしれません。

糖尿病患者にとってインスリン投与が不要となる日も近いのかもしれませんね。

注2

Youtube番組「児玉龍彦×辻野晃一郎×金子勝の未来への対話」はその後も配信されていて、2023年11月22日配信の「創造的破壊 取り残される日本【児玉龍彦×辻野晃一郎×金子勝の未来への対話】」の回で、児玉龍彦さんは「コロナになって、ウイルスが波を描いて、亜種とかに変わっていくこと自体が理解できていない厚生省技官が『PCR検査なんて増やさないほうがいい』と言って、とんでもない逆行をして、ウイルス検査できずに、ウイルスの配列を決めないと、治療薬が作れない、そういうことも理解できない人がお役人や大学の中にかなりいるような状況に日本が陥ってしまった……(結果、)医薬品の輸入超過が今や4億6000万円に達した」と嘆いていました。

PCR検査を巡る偽陽性・偽陰性騒ぎが、愚者(サイト主)にとって統計学を再度勉強するきっかけになったので、このくだりは聞き捨てならないものでした。

さらに児玉龍彦さんによると、日本では「がんゲノム医療連携病院」が全国211カ所あり、その情報をまとめる上位機関である「がんゲノム医療拠点病院」が32カ所、「がんゲノム医療中核拠点病院」が13カ所あり、厚生省はゲノム医療を必要とするがん患者さんが、全国どこにいても、がんゲノム医療を受けられる体制を目指しているそうです。保険診療としての「がん遺伝子パネル検査」は上記病院のみで実施可能とのことですので、リンクを貼っておきましょう。

【地域別】がんゲノム医療を受けられる施設

この優れたシステムで集められた情報は世界的に注目されていて今、日本もうでが行われているとか。ところが、その情報の使い道について、これまた聞き捨てならないことが語られていました!

日本の法律では「がんは強制的に登録」されますが、その情報を使えるのは、政府(統計用とかですね)と研究者だけ。製薬会社や保険会社(保険金等を決めたりする)などの企業は匿名化したデータとして利用できますが、情報を提供した患者本人だけが利用できません。論語で言う「知らしむべからず、由らしむべし」(為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はない)という考え方のままだというのです。マイナンバーシステムもこの点を根本から解決しない限り、私たち一人ひとりの利益にはならないのだと改めて思い知りました。

情報革命が医療分野にも襲いかかり、医者という職種すら崩壊しかねない今、ひとまわりも2まわりも遅れてしまった日本なのに、世界の潮流からさらに逆行して、高等教育予算を削減し続けています。リスキリングの必要性が叫ばれていますが、付け焼き刃的に知識をつけるだけでは、情報の変化が激しく、能力のアドバンテージ期間がどんどん短くなっていく中、すぐに通用しなくなってしまいます。

児玉龍彦さんは、「リスキリングの本質は基礎力」だと言います。基礎力があれば、情報の変化に対応できるからです。

これからの日本は、高等教育をもっともっと充実させ、基礎力を強化していくべきですね。

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愚者の力 / The power of fool

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