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LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い

クイズ付き書評
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本を読みたくなる理由は人それぞれですが、愚者(サイト主)の場合、仕事がきっかけになって、本を読みたくなることが多いようです。

たまたまLGBTQ+の方々の講演会のサポートをする機会があり、LGBTQ+支援者になったきっかけの多くが「(LGBTQ+当事者の)知り合いや友人の自死(未遂含め)」という事実を知り、当事者の方々が抱える悩みの深さに改めて気付かされました。

その直後に、YouTube番組「デモクラシータイムス」で4月30日に公開された「脱北者 石川学さんが問うたもの 辛淑玉 × 北丸雄二 【マイノリティ・リポート】」を視聴しました。番組の中で、4月19日から21日に開催された東京レインボーパレードについての報告があり、30年目を迎える今回、特に印象的だったと北丸雄二氏が語ったのが、若者の参加が大幅に増加したことと自身の即売会ブースに訪れた学生とのやりとりでした。

LGBTQ+運動の歴史を改めて知りたいというその若者は、土曜日に北丸氏が翻訳したアメリカにおけるLGBTQ+運動史の本を購入し、感謝共に感想を伝えようと、なんと翌日の日曜日に北丸氏のブースを再訪問したのです。

人権運動の歴史をティーンエイジャー向けに易しく解説するような書籍は、3年前に仕事で関わったことがあり、それは中絶の歴史についてのカナダ(*注1)の本でしたが、この年になるまで、こんなことまるで知らなかったことばかり! ととても驚いた経験があったので、本書も早速読んでみようと思ったのです。

どちらの書籍も図版やイラスト、写真が豊富で、時々挟まるコラムも楽しい啓蒙書です。海外、特に欧米での活動の歴史を網羅的に知ることができます。

「LGBTヒストリーブック」の各章には、LGBT活動で闘った歴史上の人物に関して記述する「LGBTヒーロー」というコラムがあり、その中の1つに、北丸氏による訳注が付いていて、日本の歴史上の事件(裁判)でも尽力してくれた人物であるということが書かれていたのを発見し、とても驚きました。

愚者(サイト主)は、本書でその裁判のことを初めて知りました。

ト?・ア????(1941~)」
サンフランシスコ統一学区の小学校教諭であるト?・ア????さんはゲイやレズビアンの教師たちにきちんとした雇用保障がないことに抗議するため、1975年カリフォルニアの先生として初めて公的にカムアウトし、他の教師たちと一緒に地区の教育委員会に対する抗議のピケを張りました。教育委員会は全会一致でLGBTの職員にも雇用保証規定を追加することを決めました。その後、教育委員会委員に立候補、当選し、市教委の長になった後、2008年にはカリフォルニア州下院議員に当選します。

そのト?・ア????さんは1993年1月に「府?????」裁判において東京地裁で証言台に立ちます。

府?????」裁判
1990年、LGBT団体が東京都の「府?????」で合宿利用中に、他団体から差別・嫌がらせを受けました。施設所長に、嫌がらせに対処するよう要請しましたが、所長は「同性愛者の施設利用は今後お断りする」と発言、東京都教育委員会(石川忠雄委員長)も同性愛者の宿泊利用を拒否しました。

LGBT団体は都教委決定を不服として東京都を提訴、東京都は「男女別室ルール」を楯に反論してきました。ところが、調べてみると、男女でも泊めている施設があったり、「男女の部屋割りはグループの責任に任せる」と規則に書いてある施設があることが判明。ト?・ア????さんも東京地裁で説得力ある証言をしてくれたそうです。国を超えて連帯し合えることは本当に素晴らしいです。とても励まされますね。

正解はこちらをクリック

第1審判決はLGBT団体が勝利。東京都は東京高裁に控訴します。

高裁では東京都は、「性的に引かれるもの同士が、同じ部屋に泊まるのが問題」という今までの主張から「同性愛という性的指向を、性的自己決定能力を十分にもたない小学生や青少年に知らせ、混乱をもたらすこと自体が問題」に変えてきました。LGBT団体は「レズビアンのカップルと暮らしている子どもたちと、異性愛者の親と暮らしている子どもたちに、違いはない」というアメリカでの実証的な比較データを上げるなどで反論、同性愛性悪説を主張する東京都側に対し、同性愛者の人権について主張し、1997年の高裁判決でもLGBT団体が勝利しました。

判決では「同性愛者の権利、利益を十分に擁護することに、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されないことである」と結論付けたそうです。

この裁判について詳しくは、下記のサイトを参照してください。

諏訪の森法律事務所のサイト「レズビアン/ゲイの人権・法律問題 「府中青年の家」裁判」

1997年の東京高裁の判決があったにも関わらず、その後も差別は続いていて、26年後の2023年2月には岸田文雄内閣総理大臣が選択的夫婦別姓や同性婚制度に関し、「(制度を改正すると)社会が変わってしまう」という差別発言したり、その発言に対して荒井勝喜秘書官が「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ。社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する。同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などのさらに差別的な発言をし、解任されるなど、政権側の人権に対する理解が、進むどころか後退したのではないかと思える出来事が相次いでいます。

同年の6月、いろいろと問題はあるものの、LGBT理解増進法は公布されました。

本書がティーンエイジャー向けに特に良くできているなと思うのは、「やってみよう」と題するコラムが随所に挟まっている点です。

運動の歴史を紹介するだけでなく、自分の生活の中でこの活動を実践するにはどうしたらいいか、運動の成果を生活に取り入れるには具体的にどうしたらいいか、そのアイデアが書かれているのです。

自由詩を書いてみよう、秘密の符丁を発明しよう、クラブを作ってみよう、バッジを作ってみよう、旗をデザイにしてみよう、禁止された本を読んでみよう、住民投票を提案してみよう、いじめをやめさせよう……etc

読者を励ますだけでなく、読者という受け身の立場から一歩踏み出し、行動する人につなげていく。

ティーンエイジャー向けの本にとって、とても大事な視点だと思いました。

北丸雄二氏によると現在、日本版も制作中だそうです。出版されるのを楽しみに待っています。

それと同時に日本女性の人権運動と法律改正に尽力している人たちの歴史と行動を促すティーンエイジャー向け書籍も待望しています。

日本の少女たちにとって、日本女性の人権向上のための行動を起こさせる啓蒙書が、今まさに求められていると思うからです。

注1

トランプ政権時代に最高裁判事の過半数が保守派になったアメリカでは中絶の権利が制限されていますが、カナダでは1988年以降、合法化されています。カナダはまた、LGBTQ+フレンドリーな国であり、2005年から同性婚を認めています(世界で4番目)。 アメリカは2015年からで19番目。もちろん日本はまだ認めていません(世界の同性婚)。カナダはまた、移民受け入れや難民認定にも積極的で、日本からも多くの女性が移民しています(日本人の76%が女性)。2023年秋には日本人女性カップルが難民認定を受けました。家父長制が根強く残り、政権内の少数派に過ぎない宗教右派が選択的夫婦別姓や同性婚に反対し続ける日本を変えるより、カナダに脱出したほうが楽だと判断するのも無理からぬことかもしれません。

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