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自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」

クイズ付き書評
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西谷文和さんの「路上のラジオ」第147回「新しい外交、しっかりと交渉し、戦争を防ぐ。」*注1)を聞いた愚者(サイト主)は、ゲストの猿田佐世さんによって、アメリカ発のニュースが、ごく一部の日本人によって、自分たちの推進したい政策の追い風となるよう、恣意的に仕立てられたものだということを知り、長い間まんまと騙されていた自分をとても反省しました。そして、最低限、この辺の知識を身に着け、騙されないようにしたいと思い、猿田佐世さんの著書を読んだのです。

トランプが大統領になり、日米関係が今まで通りには行かなくなるかもしれないぞ、という激震が日本政府を襲った時期でもあった2017年刊の本書ですが、日本政府や日本の既得権益層が、「対米従属」の姿勢を表では装いながら「ワシントン拡声器」を使って、自らの望む政策を推進している状況は、70年前も、バイデンが大統領になった今も変わってません。

2024年の大統領選挙ではトランプが優勢だとか。従来路線を継続してほしいロビーイングが再び盛んになるかもしれませんね。

ワシントン拡声器」とは何か? 著者は「アジェンダ設定能力(世界が注目するテーマの設定能力)を持ち、評価を与え、権威付けを行う(世界に発信)」と定義しています。具体的には、

一部の日本人が、アメリカの知日派やシンクタンク資金や情報を与える
・与えられた情報に基づき彼らが発言したり、報告書を発表したりする
日本の政府やメディアが、アメリカ側から出てくる情報のなかから、自分たちの推進したい政策の追い風となる情報を選択し、選択した情報を「ワシントン発」の声として日本に向けて「拡声」しながら伝える
アメリカの影響力を追い風に、日本国内で自分たちの望む政策を実現する

と説明しています。

また、「日米外交に影響を与える3つの層」を紹介し、①②はほとんど日本に関心を持っていない、③が事実上の力を持つと著者は解説しています。

①国務省、国防総省(軍)をはじめとする米連邦政府
②世界最強と言われる連邦議会
ワシントンの街そのもの。シンクタンクや大学などに所属する日本研究者やロビイスト、メディア、企業など

③のなかでも、特にこの30年はシンクタンクが強い影響力を持っていて、ここに日本の声を届けるのは、日本大使館、大企業、大メディア、政治家であり、日本国民一般の代弁をしていないことも多いと言います。

政治家や大企業はともかく、日経などの大メディア、さらに日本大使館! というのが驚きです。

実は日本を専門とする研究者は中東や欧州のそれに比べると少なく、なぜなら、「中東や欧州は一筋縄ではいかない国が多いが、日本は米国の言うことに基本的に従うので、新たな対日政策を打ち出す必要もなく、少数の専門家で事足りるからだ」なのだそうです。

第1問)自民党との付き合いが得意で、憲法改正、海外への自衛隊派遣を推進する知日派トップ5

戦後70年、日本ではごく少数の米知日派の声が、「アメリカの声」であるかのように扱われ、強い影響力を持ってきました。

知日派:日米外交に関わるアメリカ人。5~30人程度!(少なっ!!)

というわけで本書で紹介されていた著名な知日派トップ5を覚えましょう。彼らは自民党との付き合いが得意で、憲法改正、イラク(当時)への自衛隊派遣を醸成しています。

リチャード・ア????? 共和党。レーガン政権で国防次官補。ブッシュJr政権で国務副長官。
ジョン・ハ?? クリントン政権で国防次官、国防副長官。シンクタンクC???の所長。
マイケル・グ??? ブッシュJr政権で国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長。C???の上級副所長兼日本部長
ジョセフ・ナ? 民主党。クリントン政権で、CIA直属のNIC(国家情報会議)議長(次官級)、国防次補。現在はハーバード大学特別功労教授
カート・キ???? オバマ政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)。

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第2問)ワシントンシステムを支えるシンクタンク

アメリカでは人々が政府ポストと民間ポストを行きつ戻りつする、いわゆる「回転ドア」システムにより、シンクタンクが重要な役割を果たしています。

そのシンクタンクで、日本関連のシンポジウムが、日本の資金で開催され、その聴衆も日本人そこでの報告が「ワシントン情報」として日本に大きく伝えられ日本政府が望む方向に世論が作られていきます

というわけで、影響力の強いシンクタンクも覚えましょう。

C???(戦略国際問題研究所) 最も影響力の強いシンクタンク。
  日本政府から資金援助を受けて「ア?????・ナ?報告書」を発行している。
  援助している団体・個人の顔ぶれがすごい。
    笹川平和財団、三菱商事、経団連、NTT、富士通、丸紅、キャノン、日立、
    ホンダ、伊藤忠、三菱重工、三井物産、双日、住友商事、三井住友銀行、トヨタ、
    稲盛和夫氏(ビル建て替え費負担)
  客員研究員送り出ししている団体・個人として、
    丸紅、JETRO、富士通、防衛省、朝日新聞、経団連、公安調査庁、NEC、警察庁、
    東京海上火災、内閣官房、NTTデータ、小泉進次郎氏
②CFR(外交問題評議会) 「フ????・アフェアーズ」を発行
③AEI(アメリカンエンタープライズ公共政策研究所) チェイニーが理事
④ヘリテージ財団 トランプ政権移行をサポートした保守的シンクタンク
⑤カーネギー国際平和基金 
⑥ブルッキングス研究所 資金提供:国際交流基金日米センター、JICA、日本大使館、航空自衛隊、
                 国際協力銀行、トヨタ、全日空、日立財団、三菱商事、日経、
                 野村財団、UFJ、ホンダ、国際経済交流財団、丸紅、三菱重工、
                 三井物産、双日、住友商事、三井住友銀行など
⑦米国先端研究所

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アメリカの利害と日本の思惑
衰退するアメリカは「国防予算の大幅削減」の必要があり、従来の「二正面作戦」からの離脱(1つの地域で大規模紛争に対応する場合、もう1か所を同時に関与する能力を諦め、これを抑止するに留める)が求められています。このため日本にはアメリカの軍事行動の一部を担当してほしい台頭する中国に対するアジア太平洋地域における役割を分担してほしいというのがアメリカの狙いです。

そのアメリカの狙いに沿うことは、安倍政権にとって2つのメリットがあったと言います。

①日本が軍事力をつけて存在感を増し、国の影響力を高める。
②アメリカに振り向いてもらうために、アメリカの期待に応えていく

この背景には
アメリカとの関係強化以外にアジアで日本の繁栄(平和)を保つ方法はない
という考えがあるのだそう。

身も蓋もない言い方をするなら、

 アメリカの威を借りて、アジアで威張りたい

ということですね。

そうやって、戦後70年にわたって日米は「共犯関係」を続けてきました。

日本政府や日本の既得権益層は、表では「対米従属」の姿勢を装いながら、「ワシントン拡声器」を使って、自らの望む政策を推進し続けてきました。「ワシントン拡声器」は費用対効果、時間対効果が高いのです。自ら「対米従属」を選びながら、それを隠し続け従属させられているような振りをしてきた日本政府には問題があります。

でも、その政府を選んでいるのは、私たち日本国民であると著者は指摘します。

本書では、日本国民の多くが望んでいないし、当のアメリカ自身も望んでいない、原発問題(原発は恐竜みたいに古臭い技術なのに、日本はなぜ固執するのか? 原発産業はアメリカでは斜陽産業と思われている。新設がほとんどない。原発のコストは安くない、ペイしない、縮小傾向にある。日本が脱原発しても困らない……etc)や沖縄問題にも切り込んでいます。

遣唐使、遣隋使の時代から強国にへつらい、その威力をかさにきて庶民を支配することが習性になっているのが日本人、とりわけいまだに家父長制に固執し続ける既得権益層だということがよく分かる一冊でした。

本書の最後には、対米従属に代わる具体的提案ワシントンに効果的に働きかけるためのノウハウがまとめられています。手練れの既得権益層に市民社会が対抗していくためにはそれなりの戦術が必要ですね。

日本が某アジアの大国に支配されたらされたで、また新たなこういう人たち(植民地の小役人)が現れるだけ、と庶民である愚者(サイト主)は思ってしまいますが……。

注1

この後、ポリタスの西尾慧吾さんの回(#865 「新しい外交」とは何か?多様な声で外交を変える|政府が「戦う覚悟」を公言する今、武力に頼らない新たな外交の作り方を探る)にも猿田佐世さんが登場し、「選挙に行く子に育てたいなら、家に「はだしのゲン」を置いておくだけでいい」と仰られたのがとても感慨深かったです。

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愚者の力 / The power of fool

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