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ルポ 副反応疑い死 ―ワクチン政策と薬害を問いなおす

クイズ付き書評
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山岡淳一郎 著 筑摩書房刊

反ワクチン派によるワクチンの危険性を訴えるネット情報が溢れる中(親切心からなのでしょうが、親しい友人からも、愚者(サイト主)宛に海外の反ワクチン動画メールが度々送られてきました)、ワクチンの必要性を認め、筆者自身も三度の接種を受けつつ、その不備を改めるべく、ワクチンの「安全・安心」を問う話題の本書を読みたいと思い、手に取りました。

本書を読み終えた今は、新型コロナワクチン接種後の「副反応疑い」による死亡者の実態をあまりに知らなかった自分を恥じ入るばかりです。コロナの拡大防止のための防波堤であるワクチン接種政策の犠牲になった方々に対する、日本国の行政や政府のあまりにも冷酷で非人道的な対応に激しい憤りを覚えました。

接種前まで元気だった人が突然帰らぬ人となる……。残された家族の悲しみにさらに追い打ちをかけるPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による理不尽な因果関係判定の数々。今後、訴訟が各地で立ち上がってくることは必定で、その行方を注意深く見守り支援していきたいと思います。一人でも多くの人に読んでもらいたい一冊です。

本書は「知らなかった」「知っておかなければいけない」事実に溢れています。深く記憶にとどめておきたい事項を引用したいと思います。

第1問)改めて知る副反応による健康被害対策2つの異なる制度

副反応疑い報告制度
医療機関からPMDAに伝えられ、PMDAが副反応との因果関係の判定を下し厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の公開資料にリストアップし、公表されます集まったデータをもとにワクチン接種を??するかどうか決めるのが目的です。

予防接種健康被害救済制度
健康被害者や遺族自治体の窓口補償請求の申請をします。国に取り次がれ、審査会の審査を経て、死亡一時金や葬祭料が支給されます。健康被害者を迅速に幅広く??のが目的です。

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②は1970年代、天然痘やインフルエンザ、腸チフスなどの予防接種事故で子どもを喪ったり、重い障害が残った親たちが国に働きかけて設けられました。それ以前の予防接種は国民の義務で、違反者は罰金や罰則が科せられ、学校の集団接種で死んでも「特異体質」で片付けられました。

2つの制度①②は別のもので、目的も異なります。

2022年3月8日、日本共産党の田村智子議員が被害救済の遅れについて、死亡事例の審査数の少なさを、問いただしたところ、島村大厚労大臣政務官は、「副反応疑い報告制度と、予防接種の健康被害制度は違うということをまずご理解していただきたい」「(予防接種健康被害救済制度の窓口である)市町村は、請求のための資料を整理の上、医学的判断をするのではなくて、資料さえそろえば国に進達していただき、疾病・障害認定審査会において、これは国です、国において医学的、科学的知見をふまえた上で、因果関係の認定のための審査が行われます」と答えています。なので①の審査で評価不能のγ判定*注1)が出たからといって健康被害救済申請を諦めてはいけないのです。


第2問)PMDA設立の背景~あの製薬会社がきっかけだったとは!

副反応との因果関係を審査を行うPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の発足は2004年4月と意外に遅く、それ以前は3つの組織に分かれていたのだそうです。

1980年代~2000年代初頭、2つの大規模薬害被害「薬害エイズ」、「薬害肝炎」が社会問題化しました。

非加熱製剤販売元?????加熱製剤が承認された後もすぐに非加熱製剤を回収せずHIV感染を拡大させ回収を命じなかった???も不作為責任を問われ、当時の担当者が業務上過失致死で有罪になりました。

その反省から厚生省は、1999年に「誓いの碑」(命の尊さを心に刻みサリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることのないよう医薬品の安全性・有効性の確保に最善の努力を重ねていくことをここに銘記する)を本省敷地内に建てたのだそうです。

ところがほぼ同時期、やはり非加熱製剤の血液凝固因子製剤「フィブリノゲン」がC型肝炎ウイルスに汚染されていたため薬害が広がりました。この製造販売者も?????でした。

?????戦中に中国大陸で細菌戦や人体実験を行なった?????の生き残りで元陸軍軍医の内藤良一が創設した会社でした。内藤は、厚生省薬務局の?????を迎え、要職に就けました。経営の実態を握った元官僚たちは判断を誤り、元薬務局長の松下廉蔵は薬害エイズ事件で禁固刑に処せられました。「フィブリノゲン」も米FDAが承認を取り消した後も日本国内で使われ被害が広がっています。

厚労省は2002年に?????連携不足を指摘した報告書をまとめ???政府」を目指す?????内閣の「聖域なき構造改革」の????改革の流れにのって、PMDAが設立されたというわけです。

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報告書の作成過程で感染疑いの418人分の患者リストが製薬会社から厚労省に提出されましたが、患者本人には告知せず、治療の機会を逸しました

2008年PMDA初代理事長で元医薬局長の宮島彰氏は辞職、その後薬害C型肝炎訴訟は和解が成立し、被害者を全員一律救済する特別措置法が施行され、PMDAは200億円の基金によって救済給付金を支給する事務を執り行っています。PMDAの経営は製薬会社からの資金で賄われており、それゆえの問題点も本書には記されています。


第3問)「迅速に幅広く」救済されるための要件「白木四原則(3基準)」をコロナワクチンにも適用すべき

気の遠くなるような国と被害者の長い戦いの末に勝ち取った仕組みである予防接種健康被害救済制度白木四原則(3基準)はその戦いの過程で獲得されました。

時代とともに合理性が失われてきた天然痘強制接種の接種禍訴訟の結果、1976年5月に「予防接種健康被害救済制度」が設けられましたが、救済すべきかどうか、明確な基準が必要でした。訴訟法廷で神経病理学者の白木博次元東大医学部長が以下の4つの要件が合理的であると証言しました。

ワクチン接種予防接種事故とが、時間的、空間的に密接していること
他の原因となるべきものが考えられないこと
副反応の程度他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと
事故発生のメカニズム実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること

これに対して、国は反論しましたが、1984年東京地裁、1992年東京高裁での原告側の勝訴などの結果、国は予防接種行政の方針を大転換。「義務」から「??義務」に、「集団」から「??」へと接種形態を変えました

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その後の裁判の過程で白木四原則は以下の3基準に収斂(認定が「厳密な医学的な因果関係まで必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象」とする方針)していきました。

①当該症状がワクチンの副反応として起こりうることについて医学的合理性があること
②当該症状がワクチンの接種から一定の合理的時期に発症していること
他原因によるものであると考えられることが合理的な場合にあたらないこと

コロナワクチン接種による健康被害救済申請数は2022年11月7日までに5013件受け付けられ、そのうち死亡一時金の請求は418件で、審査されたのは19件のみ。10件のみが認可され、残りは保留もしくは否認状態です(一方、医療費や医療手当の支給は1000件以上)。例年の審議ペースは年間100件(コロナ以前の1987~2019年までの32年間では、救済された総件数は3419件)なのに、コロナワクチン接種で1年で3000件近くが申請されたため、処理が追いついていません。

厚労省は新型コロナワクチンの健康被害救済にあたって審査要件を上記3基準通りにしてせず、微妙に言い方を変えているとか。

②一定の合理的時期に発症→時間的密接性
③他原因によるものであると考えられることが合理的な場合にあたらないこと→他の原因によるものを考える合理性がないこと

多くの人たちの犠牲の末に、「迅速に幅広く」救済されるために、白木四原則(3基準)が出来たのだから、厚労省はコロナワクチン接種被害に対しても、きちんと活用してほしい。


第4問)被害救済をおろそかにした結果、日本はワクチン後進国に
ワクチン開発には「確かに安全であり、予防効果がある」ということを数千人レベルで確認する???試験が必要です。ところがコロナワクチンの場合、日本国内の臨床試験の母数は、ワクチン接種群でわずか119人、プラシボー群はさらに少ない41人でした。

PMDAワクチン等審査部は2020年9月2日、文書を出し、「海外で???試験が実施されていれば、国内では日本人における免疫原性及び安全性を確認する国内臨床試験(第一、第二相試験)で十分」としています。

2000年代の初めのころまで日本は新薬の承認審査に時間がかかり海外で使われている医薬品が国内で未承認状態の「ドラッグ・??」が問題視され、多くの患者が海外から高額の未承認薬を取り寄せていました。

そこに日本の市場開放、規制緩和を求める米国政府が圧力を加えました。米国は2011年の「日米経済調和対話」で「新薬創出加算*注2を恒久化しドラッグ・??解消を促進し研究開発への誘因を強化せよ」と圧力を掛けてきたのです。「海外の治験データを流用し、PMDAは製薬会社と連携して承認審査を行え」と。

その後、米国の指南通りに承認審査の迅速化は進み、欧米とほぼ同等に短縮され*注3)、新薬創出加算は対象を拡大しつつ現在も維持されています高額な新薬が次々と保険収載され医療費は膨張し続けています

そんな迅速化の反動で起きた事件が薬害イレッサ事件です(申請から5か月の異例のスピードで世界で初めて日本で承認されました。2011年までの公式発表だけでも834人が副作用で亡くなっており、遺族患者の訴訟は敗訴しています)。

一方、国産のワクチン開発はどうだったのかというと、主に5つのグループのワクチン開発に補助金やAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究費、計130億円が投じられました。しかしながら期待する水準に達せず、開発は中止されてしまいました。

その中の1つ、アンジェス阪大/タカラバイオは、関係者から「可能性が低いのになぜ補助金がつくのか?」と疑問視されていました。アンジェス創業者の森下竜一大阪大学大学院医学系寄附講座教授は、山梨のゴルフ場で開かれた安倍首相主催のミニコンペで、統一教会と関係の深い萩生田光一や、後に日大資金不正送金で逮捕・起訴される籔本雅巳と同じ組だったり、維新とのつながりも深い人物です。吉村洋文大阪府知事と松井一郎大阪市長は、アンジェスの開発を持ち上げる会見を開、開発中止に際しては自己正当化に終始しました。

厚労省は海外で先行したワクチンの???試験の国内実施を免除する一方、国産ワクチン開発には従来どおりの???試験を求めました。後発の開発者がプラシボーを被験者に打って新型コロナに感染させるのは許されるのか? という倫理的問題もあり、国産開発は挫折しました。

かつてはワクチン先進国であった日本。開発力の衰退原因は、被害救済をおろそかにした結果です。敗訴が続き、接種が一人ひとりの「自主性」に委ねられると、接種率の低下は免れません。費用負担がある予防接種の絶対量は減っていきました。国内製薬会社はワクチンの開発意欲を失い治験の協力者も減りワクチン学もマイナーになり、ワクチン暗黒時代になったのです。

結果、利用できるワクチンが欧米から20年遅れになる「ワクチン・????」(WHOが推奨するワクチンが、国内では公的な定期接種に組み込まれず、国際的水準に届いていない状態)が生じてしまいました。

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人権をおろそかにするツケは必ずやってきます。

日本のHPVワクチン接種率が先進国ワーストレベルである背景には「接種による被害を訴えても、因果関係がなかなか認められず、補償が受けられない」という苦い経験が広く私たちの中に植え付けられてしまっているからではないでしょうか? 

今からでも遅くはありません。コロナワクチン接種被害者を速やかに救済し、「ワクチン・ギャップ」を少しでも解消していってほしいものです。

注1

PMDAの因果関係評価は以下の3種類です。

「否定できない(認める)=α」
「認められない=β」
「評価できない(評価不能)=γ」

2022年9月4日時点で有害事象報告は30,482件。そのうち死亡、障害、入院などの「重篤」なケースは7,798件あり、その99%以上が「γ」判定にされていると書かれているので、実際どう公表されているのか見に行ってみました。厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)の該当年月の「資料」は膨大でどこに掲載されているのか分かりませんでしたが、「副反応疑い報告の状況について」というPDFの「12歳以上の死亡例に関する考え方(副反応疑い報告の状況に関するまとめ①」のところを見ると、件数は4桁で、確かにγ判定以外は1件しかありませんでした。

注2

薬価は2年に一度の改定で、市場実勢価格に合わせて引き下げられますが、新薬創出加算は、革新的条件を満たした新薬には加算をつけ、ジェネリックの発売まで薬価を維持または下がりにくくするというもの。すでに2年の加算が試行されていましたが、米国の要求はこれをずっと続けろというものでした。

注3

そうは言うものの、ピルや緊急避妊薬や経口中絶薬が日本では国内承認されるのが遅く、保険適用されないのはなぜなのでしょう。一方でバイアグラはスピード承認され、某芸能事務所の社長の性加害を助長したとか。「女性の自己決定を尊重する」概念であるSRHR(「性と生殖に関する健康と権利」)は日本では遅れたままなのです……。

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