When Memory Fades - part two
記憶が癒える時 - 第2部

by J. Kallen
J.カレン著


Plucked from the Vales
I will ignite my Thel
the urgent need to
Burn myself to purity
Extinguish all that mires destiny
Let tragic memory fade
Only now
Only I will dominate
楽園(エデンの園)から引きずり出されて
俺は自分の無垢な魂(注:Thel=イギリスのロマン派詩人&画家であるウィリアム・ブレイク<1757-1827>の作品『The Book of Thel』からの引用。ビーナスの娘であり、純粋で無垢なThelは大人の世界を経験したいと憧れ、花や雲に問いかける。どんなにそれが辛く、残酷で、最終的には死が待ち受ける世界であったとしても、激しい好奇心には勝てず、ついにThelは楽園を後にする。だが、現実の世界で自分の墓標を見てしまったThelは怯え、純粋なままでいようと決心し、再び楽園に逃げ込んでしまう。Thelは厳しい現実を受け入れることができなかったが、カートは、アーサーという無垢な男の力を借りて、現実の世界に再び立ち向かおうと決意する)を奮い立たせる。
俺を純粋なまでに焼き尽くそうという
衝動が激しい勢いでこみ上げる。
俺の人生を苦しめるあらゆることを消し去りながら
悲劇の記憶を薄れさせようと。
今だけは
この俺だけが運命を支配できるのだ。

- From the album "My Destiny" by Curt Wild
アルバム「俺の運命」(カート・ワイルド)より

I woke up with a headache and a pain in my lower back. Damn I was getting old. I sat up in bed for a while observing my white loft. I realized that I had painted it to look a hospital-type white.
目を覚ますと頭はガンガンするし、背中の腰の当たりもズキズキ痛い。くそっ、俺もいい加減焼きが回ったようだな。ベッドに腰掛けながら、しばらくの間、白く塗った自分のロフトを眺めた。すると俺はロフトを、まるで病院みたいに白く塗ってしまったことに気が付いた。

I shivered. It was far too clean and sanitary. All it needed was the engulfing scent of wood alcohol. I needed to change this. Black paint tomorrow, definitely.
俺は身震いした。これじゃあまりにも清潔で衛生的すぎる。これにあの木精アルコールの匂いがプンプンすればもう完璧だ。これは変えないとダメだな。明日にでもまっ黒く塗り変えてやる。絶対に。

Arthur was in my 'kitchen' area making coffee, I could smell it.
"Good you're up," he said. He was wide awake. The blood rushing kind of awake.
"I used your phone, I had to make a few phone calls for work. Hope you don't mind."
キッチンでアーサーがコーヒーを入れる香りがする。
「お目覚めかい……」
アーサーは言った。奴はしっかり目を覚ましていた。血中アドレナリン濃度が高まっているかのような(怒りでカッカとした)目覚め方で。
「電話を使わせてもらったよ。仕事で2、3電話をかけなきゃならならないところがあって。気を悪くしないでくれるといいんだけど」

I was still waking up and just nodded. I hummed, working out a kink in a song I had just started and stretched out my back. I panned the loft slowly.
まだ寝ぼけていた俺はただうなずいた。まだ数ヵ所穴がある(working out a kink=歌のもつれてた箇所を手直しする)作ったばかりの新曲を口ずさみながら、背筋を伸ばす。俺はゆっくりとロフトを見回した。

I had several prints of Van Gough: Tree with Ivy in the Asylum Garden, Starry Night, Sidewalk Cafe at Night and Trees in the Asylum Garden.
俺はヴァン・ゴッホの複製画をいくつか持っていた。「精神病棟の庭にあるツタのからまる木」(注:スケッチ画。1889年作。精神を病んだゴッホはもと修道院であった、サン・レミのカトリック精神療養院に入院する。自室の制作室も与えられ、サン・レミ時代と呼ばれ、生涯で最も制作活動が充実した時期である。アムステルダムのヴァン・ゴッホ美術館にある)「星月夜」(注:油絵。1889年作。ゴッホの代表作。ニューヨークの近代美術館MOMAにある)「夜の路上カフェ」(注:ゴッホが共に暮らしていた画家ゴーギャンの耳を切り落す事件を起したアルル時代に描かれた有名な油絵、「The Cafe Terrace on the Place du Forum, Arles, at Night」のこと。1888年作)そして、「精神病棟の庭の木」(注:水彩。1889作。現在場所不明)だ。

They would still look beautiful, even after I paint the walls black. Wait. Something was missing.
"And where is my telephone?"
これらの絵は俺が壁を黒く塗り変えた後も、壁に美しく映えるだろう……。待てよ、何かなくなってるぞ。
「で、俺の電話はどこだ?」

"Threw it out in the hall, " Arthur said. Then, "Brian called."
「玄関に放り出したよ……」
とアーサーは言い、そしてこう続けた。
「ブライアンから電話があった」

"Really," I said. Interesting reaction. I figured it was always the shy boys with all that pent up anger. This one seemed to be the most angelic of all.
「ほんとか……」
そう俺は答えた。こいつは面白い反応だな。内気な坊やというものはいつでも怒りは内に貯めるものだとたかをくくっていた。そして、この坊やはその誰よりも天使のようにあどけないやつだと思っていたんだ。

Not by his looks though, but by his voice, movement, and intelligence.
"What did he want?"
外見からはそう見えなくても、声やしぐさや知性から、俺にはそう思えたんだ。
「で、奴の狙いは何だったんだ?」

Arthur had changed for me in a couple of hours. The dewy eyed man who seemed to be in a permanent state of simplicity was standing in my loft as if it were his. He was only in his T-shirt and boxers. I breathed evenly.
俺のせいでアーサーはほんの数時間で変わってしまった。いつまでも純粋なままでいるにちがいないと思われていた潤んだ瞳の男は、まるでここの主は自分だといわんばかりに俺のロフトに立っていた。大胆にもアーサーはTシャツとトランクスだけといういでたちだった。俺は(動揺を抑えようと)息を整えた。

He handed me my cup of coffee.
"You," he said. Arthur was defensive.
アーサーは俺にコーヒーカップを手渡した。
「君だよ……」
そう言うアーサーは口答えしたい風(物言いたげ)だった。

"I don't know why," I said. Arthur gave me a look, a pout really. I couldn't believe it. I took him home because of a beautiful memory of him. A virgin beauty years ago. What the hell was this? Then I knew.
「そんなことされる覚えはねえな……」
俺は言った。アーサーは俺に顔を向けた。何と膨れっ面だ。信じられない。麗しい思い出のよすがにこいつを家に連れてきたというのに。あの頃にはバージン特有の奥ゆかしさがあったというのに。おいおい一体こりゃどういうことだ? ……やがて俺は悟った。

This was the kind of man that wasn't playing a game. He wanted me in his life and it had nothing to do with power or how great we looked together to create a facade. Then I realized that I had to repeat myself.
こいつは人の気持ちを弄ぶような男じゃないんだ。アーサーは人生を賭けて俺だけを求め続けてくれたし、俺に力を振るいたいとか、外面だけよく見せるためにカッコいいから一緒にいるなんてこととは無縁の男だった。そうして俺は悟ったんだ。もう一度同じ文句を繰り返すしかないなと。

"I don't know why."
I started to laugh. I laughed at Arthur's sweet accent. It made him sound like a little boy.
「そうされる覚えがない」
俺は吹き出した。アーサーの甘えた口調がおかしくて。まるで年端のいかないガキみたいだったから。

"What are you laughing at?"
「何がおかしいのさ?」

"Nothing," I said.
"He invited me backstage last night. I watched the concert and I didn't bother with actually meeting up with him. Besides, shit, he's not Brian anymore."
「何でもない……」
で、俺は説明した。
「奴には昨夜、ステージ裏に招待されたよ。俺はコンサートは見たが、わざわざ顔を会わせてやることもないだろうと思ったのさ(bother with=わざわざ〜する)。それに、くそっ、あんな奴、もうブライアンなんかじゃねえよ」

"I'm sorry," Arthur said.
「ごめん……」
アーサーは言った。

"Don't be sorry," I said and started laughing again. What a sweetheart. I walked away to my mahogany dinner table. Yea, thank goodness this wasn't white! I sipped my coffee. I watched Arthur with his serious eyes.
「お前が謝る必要なんてない……」
そう言うと俺はまた笑い出した。なんて可愛い奴なんだ。俺はマホガニーのディナー・テーブルの方へ歩いて行った。ああそうだ。こいつはありがたいことに白くない! コーヒーをすすると俺は、真剣な眼差しのアーサーを見つめた。

"The reporter scrutinizes the haggard old rock star."
「レポーターが老いぼれた昔のロックスターをじろじろ観察する、の図だな」

"Curt, " he said. I sighed. he was my little lost boy again. Innocent Arthur.
「カート……」
アーサーは言った。俺は溜息を付いた。ヤツは再びいつもの途方に暮れたガキ(迷える幼子)に戻っちまった。無垢なアーサーに。

"Come here baby, have a seat. Did you make yourself a cup of coffee?"
Arthur shook his head no. I made him a cup.
「こっち来て座れよ。自分の分のコーヒーは入れなかったのか?」
アーサーは首を振った。俺はこいつにコーヒーを入れてやった。

"Here. I told you last night not to worry."
I reached out and pulled back his dark brown hair covering his soft face. I remembered my own real hair color.
「なあ、心配するなって、昨日の夜、俺は言ったはずだぜ」
俺は手を伸ばし、アーサーの優しげな顔を隠しているそのダーク・ブラウンの髪を掻き上げた。俺は本来の自分の髪の毛の色を思い出した。

"You loved him. Brian, " Arthur said. He said it slowly and painfully.
「君はブライアンを愛していたんだね……」
アーサーは言った。ゆっくりと痛々しげに。

"I did."
「昔はな」

I checked my watch 8:00 a.m., not too early for a cigarette. I lit one.
"I loved Brian when he was Brian and he never really was himself. Not all the time anyway."
自分の時計が8時を指し、タバコを吸うのにそう早すぎる時間でもないことを確認した俺はタバコに火をつけた。
「俺は奴がブライアンを演じていた頃のブライアンを愛していたんだ。決してあいつは本当の自分を見せることはなかった。とはいえ、四六時中演じていたわけじゃなかったけどな」

It felt good to say it. It was true. The man I loved was dead. It was Jack who confronted me with the idea that Brian and I had neverexisted.
'It was all a part of the show'
そう言うとすっきりした。それは事実だった。俺が愛した男は死んじまったのさ。ブライアンと俺が虚像にすぎないとという意見をジャック(注:ジャック・フェアリーのこと。女装して歌うグラムの先駆者。映画の冒頭でワイルドのピンを拾っていた子ども。「グラムロック追悼コンサート」にも出演していた)は俺に突きつけた。
’それは、はなからインチキ(ショー)だったのさ’

Jack told me, but I had my own instincts and I wanted to believe them. Jack, hey, I missed that guy. I buried my Brian and whatever resurrected afterward had nothing to do with me.
ジャックは俺にそう(ブライアンが単にカートを利用しているのだと)警告したが、俺にだって自分の直感ってものがあるし、おれはそれを信じたかった(自分の愛を貫きたかったということ)のさ。ジャック、なあ、俺はお前さんが恋しいよ。俺はブライアンを葬ったんだ。ヤツが後でどう生き返ろうが俺にはもうどうでもいいことなんだよ。

"What if he suddenly comes out of this Tommy Stone persona?"
「もし、突然あいつがこのトミー・ストーンという仮面をはぎ取ったらどうするの?」

"You spoke to him. What did he say to you?"
That pathetic weasel Tommy.
「お前はヤツと話しただろう。あの野郎はお前に何って言った?」 
あの哀れでこズルい男のトミー。

I could hear that bastard working on Arthur.
"That's why you're acting this way."  
あの卑劣漢がアーサーにどんな仕打ち(注:電話でのその後の会話)をしたか俺には聞こえていたんだ。
「だからお前はこんなことを(朝からイライラしたり、動揺しているとか)したんだろう」

I kissed his temple and sniffed at his sumptuous energy.
"It's over baby and I'm old."
俺はアーサーのこめかみにキスをすると、その贅沢なまでの生気を吸い込んだ。
「もう終わったことだぜ、アーサー。俺ももう年だ」

"You're young."
「君は若いよ」

"Shut up. I'm old. I don't want to play stupid stupid games anymore with stupid fucking people," I said. I meant that. I never really liked human beings and now I knew why. Shit.
「黙れ。俺だっていつまでも若くないんだ。もうこれ以上、間抜けでしょーもねえ連中とくだらんゲームに付き合う気はねえんだよ……」
俺は言った。本気で俺はそう思ったんだ。実のところ、俺は人間というものが好きになれなかったし(人間は私欲のために他人を利用するものだから)、今ではそれがどうしてかも分かっている(ブライアンをはじめとする愛していた人に散々裏切られてきたから)んだ。チクショウ。

Arthur cleared his throat.
"Last night. Uh, I fell asleep. I'm sorry."
アーサーは咳払いをした。
「昨夜のことなんだけど。そのぉ……眠ってしまったんだ。ごめん」

"I know. Your body owes me one," I said and smiled.
「知ってる。お前の身体、俺に(セックスするのを)1回分貸しだな……」
俺はそう言って笑った。

Arthur got up from his seat, he looked gorgeous in this place. He was another piece of artwork in my loft. He was different than any of the men I had ever wanted. Pure perhaps, maybe that's why I was fascinated with him. Maybe that's why I was calm. I was in shock.
アーサーは椅子から立ち上がった。この空間の中にいると、こいつはつくづく見栄えがいい。俺のロフトのもう一つの芸術品だな。アーサーは俺が今まで好きになったどんな野郎とも違っていた。純粋で、恐らく、だからこそ俺はこいつに魅かれたのだし、だからこそ俺は心が安らぐんだろう。俺はショックを受けた。

  I was nothing compared to one so intelligent, one so giving. I wasn't worth this. Yet somehow he was here, with me. Amazing. He sat on my lap and kissed me, he allowed me to hold him. I kissed him back pushing my tongue into his mouth. I closed my eyes and envisioned myself with him years from now.
これほどまでに知的で、人に何かを与えてくれる男に比べて、俺には何にもない。俺にはこいつほどの価値はないのに、どういうわけかアーサーはここに、俺と一緒にいる。驚きだぜ。アーサーは俺の膝の上に乗ると俺にキスをして、俺が抱き締めるに任せた。俺はお返しのキスをするとその口の中に舌を突っ込む。目を閉じて、今からこいつと過ごす数年後の自分の姿を思い描いた。

I spoke first, "Arthur, I want you to help me do something."
手始めに俺はこう切り出した。
「アーサー、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだが」

"Anything."
「何なりと」

I pulled a handful of my hair into my view.
"I want you to help me dye my hair back to it's original color."
俺は自分に見えるように自分の髪をひと房引っ張った。
「俺の髪をもとの色に染め直すのを手伝ってくれないか」

To Be Continued...
パート3へつづく……

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お世話になった方々へ
これらの対訳ページを作成するにあたって、快く翻訳の許可を下さった作者様、対訳例を送ってくださったerin様と、及び英語表現を解説してくださったKamen様とerin様のお友達のPAUL様、対訳のベーター・リーディングをしていただいたRyoko様に深く感謝いたします。


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